機能解剖学&運動生理学

運動学習2|運動学習の段階とは

こんにちは。

理学療法士の中北です。

本日は「運動学習の段階」についてお話いたします。

運動学習の段階について

運動学習とは、「熟練パフォーマンスの能力に比較的永続的変化を導く練習や経験に関連した一連の過程である」と定義されますが、この過程は「認知段階(初期相)」「連合段階(中間相)」「自動化段階(最終相)」の3段階に分かれます。

運動学習の段階を表した図

認知段階では、その運動を行うために何が必要なのかを理解する段階となるため、かなりの認知活動が必要とされます。この段階では、個別の運動を着実に実行しようとして多くの注意を払うため、運動は遅くて非効率なうえ、一貫性もありません。

認知段階を経て基本的な運動パターンを獲得すると、より細かい運動の調節を行う段階である、連合段階に入ります。

連合段階では、運動の効率性が高まってスムーズに行われるようになり、運動結果の正確性も高まります。さらに、運動は部分的に自動化されるため、認知段階のように多くの注意を必要とせず、運動以外の部分にも注意を向けることが出来るようになります。

さらに運動学習が進むと、自動化段階に到達します。

自動化段階では、運動は正確で一貫性があり、効率性が非常に高い運動が行われるようになります。この段階では、運動の大部分が自動化されているため、運動以外の部分に多くの注意を向けることが出来るようになります。

学習の段階 特徴 注意要求
認知 運動は遅くて一貫性がなく、非効率的でかなりの認知的活動が必要 運動野大部分は意識的に制御される
連合 運動は効率的で流れるように行われて信頼性も高まり、認知的活動はより少ない 運動は部分的に自動化する
自動化 運動は効率的かつ正確で一貫性があり、認知的活動をほとんど、またはまったく必要としない 運動は大部分が自動化する

※Gabriele Wulf 「注意と運動学習」を参考に作成

このように、運動学習が進むにつれて様々な変化が生じますが、中でも運動自体に向ける注意の量はパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。

注意とパフォーマンスの関係とは

運動中、何か一つの動作だけに集中してしまうと、パフォーマンスは低下します。

例えば、サッカーでドリブルをしている時に”ボールを上手く扱う”という動作だけに集中してしまうと、周りへの注意が向かなくなるため、敵が近づいて来ても気がつくことが出来ないですし、味方がどこにいるのかを確認することも出来なくなります。

そのような状態では、当然良いパフォーマンスを発揮することは出来ません。

実際に、サッカーの初心者と経験者のドリブルについて、1992年にSmithとChamberlinが行った実験があります。

ドリブルをしながら二重課題(視覚モニタリング課題)を与えた結果、経験者では二重課題条件でもパフォーマンスは変化しませんでした。ところが、初心者では二重課題条件では顕著にパフォーマンスが低下しました。

これは、初心者ではドリブルという運動そのものに多くの注意が必要なため、二重課題条件ではドリブルのパフォーマンスが下がったということです。

このような研究は、他のスポーツを対象にしても同様の結果が報告されています。

 

前項で述べたように、初心者の段階では運動遂行に多くの注意が必要ですが、過剰な指示は運動学習に悪影響を及ぼすともいわれています。

運動生理学者で有名なBernsteinは、その著書『デクステリティ 巧みさとその発達』の中で、

「感覚調整が発達するのは、いつも決まって運動スキルの構築をいわば”計画”するときだ」

と述べています。

つまり、誰かに指示をされて受動的に動くのではなく、自ら能動的に運動を計画して動くことで、より速く神経ネットワークが構築されるものと思われます。

インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカス

指示を出すうえで覚えておきたいのが、インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカスの違いです。

インターナルフォーカスとは、「運動における注意を、学習者自身の身体の一部に向けること」で、エクスターナルフォーカスとは、「運動における注意を、学習者自身の身体の外部に向けること」です。

サッカーでボールを蹴る動作を例に考えてみましょう。

インターナルフォーカスの指示では「ボールを蹴るとき、足首の角度を曲げ過ぎないで」といったように、身体の一部(足首)に注意を向けさせます。

一方、エクスターナルフォーカスの指示では「ボールの中心を蹴るように」といったように、身体以外の部分(ボール)に注意を向けさせます。

運動学習においては、インターナルフォーカスよりもエクスターナルフォーカスの方が、効果的であるという報告が多数あります。

ただし、単一の筋活動を促すという観点では、インターナルフォーカスの方が有効であると言われていますので、単純に筋肥大のためのトレーニングを行うのであれば、使っている筋肉を意識するような、インターナルフォーカスの方が効果的であるということですね!

筋肥大のトレーニングとは、言い換えると非効率性の追求ですので、確かにインターナルフォーカスの方が適していそうですね。

運動学習の発達段階に関するまとめ

まとめますと、運動学習の過程は3段階に分かれ、段階が進むにつれて運動自体への注意が必要ではなくなっていきます。

最初の段階である認知段階では、運動遂行に多くの注意が向けられることになりますが、認知段階においても、インターナルフォーカスによる指示ではなく、エクスターナルフォーカスによる指示の方が運動学習には効果的です。

さらに身体に関する学びを深めたいという方は、『Pilates As Conditioning Academy』もご覧ください。
https://pilates-as-conditioning.com/

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

imok株式会社

中北貴之