News & お知らせ

関節運動と脂肪組織

こんにちは。
理学療法士の中北です。

今回は関節運動における脂肪組織の役割についてのお話です。

関節周囲にある脂肪の役割

全身には多くの脂肪が存在しています。

「最近太ってきたから脂肪を減らさなきゃ~」とか、「健康診断で内臓脂肪がヤバイって言われちゃった」なんて話題になるアレですね。

運動系や医療系の学校では、脂肪の役割は以下のように習ったのではないでしょうか?

  • エネルギーの貯蔵
  • 体温の保持
  • 衝撃を和らげる
  • 細胞膜の成分
  • ホルモン生成や分泌に関わる

生命維持のためにこれらの役割は必要不可欠ですが、その他にも脂肪組織には関節運動を円滑にするという役割もあります。

代表的なところでは、膝関節に存在する膝蓋下脂肪体や、足関節にあるアキレス腱下脂肪体などがあり、これらの脂肪体が硬くなると関節運動が阻害される一因となります。

膝蓋下脂肪体

膝蓋下脂肪体のイラスト林典雄:運動器超音波機能解剖より引用

 

それでは、膝関節周囲の脂肪組織についてより詳しく見ていきましょう。

膝蓋下脂肪体は膝関節包の内側にある脂肪組織で、膝蓋靱帯深部の間隙を埋めるような形で存在しています。

膝蓋骨下端や、内側と外側の半月板をつないでいる横靱帯に付着しており、膝関節伸展時に膝蓋下脂肪体は前方へと牽引され、半月板も一緒に前方へと引っ張る作用があります。

また膝関節屈曲時には、表層にある膝蓋靱帯によって深層にある前十字靭帯と後十字靭帯に押し付けられるため、圧から逃れる形で膝蓋骨の後方へと流れ込むように移動し、膝蓋大腿関節への圧縮力を緩衝する役割を担っています。

膝屈曲時の膝蓋下脂肪体のイラスト林典雄:運動器超音波機能解剖より引用

このように、膝蓋下脂肪体は膝関節の屈曲伸展運動に関わっているので、脂肪組織が硬くなれば疼痛や可動域制限につながるというわけですね。

prefemoral fat pad

膝関節周囲で、前述の膝蓋下脂肪体の他にも覚えておきたいのが、prefemoral fat padと呼ばれる脂肪組織。

prefemoral fat padは膝蓋上包の深部に存在し、膝蓋上包の滑走性の向上に寄与しています。

なお、膝蓋上包は膝蓋骨と大腿骨をつなぐ滑液包で、よく「膝に水が貯まった」なんて言われるのは、この膝蓋上包に関節水腫が貯留した状態を指しています。

preemoral fat padのイラスト林典雄:運動器超音波機能解剖より引用

 

prefemoral fat padは、膝関節伸展時には表層へと広がって幅が広がり、大腿四頭筋腱と大腿骨の距離を遠ざけることで、大腿四頭筋の伸展効率を高めています。

また、膝関節屈曲時には幅が狭くなり、大腿四頭筋が必要以上に伸張されなくてよいように柔軟に形を変えていきます。

そのため、膝蓋下脂肪体と共に膝関節の円滑な動きに寄与しており、硬くなれば疼痛や可動域制限の因子となることがあります。

Kagaer’s fat pad

kager's fat padのイラスト林典雄:運動器超音波機能解剖より引用

最後に、アキレス腱下脂肪体についても確認していきましょう。

アキレス腱下脂肪体は一般的にKagaer’s fat padと呼ばれ、アキレス腱と長母趾屈筋の間にあります。

膝関節周囲の脂肪組織と同様に、足関節の背屈や底屈運動時には柔軟に形を変えることで、周辺組織の滑走性を高めています。

また、Kagaer’s fat padの一部は長母趾屈筋を覆う形で存在しており、長母趾屈筋の収縮や伸張に伴う機械的刺激から神経や血管を保護し、脛骨と長母趾屈筋の摩擦を軽減する役割も担っているとされています。

長母趾屈筋は距骨の真後ろを走行しているため、長母趾屈筋の滑走性の低下は距骨の後方への動きを制限し、結果として足関節背屈制限にもつながります。

そのため、Kagaer’s fat padへの介入は、足関節背屈制限の改善にもとても大切ですね。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

さらに身体に関する学びを深めたいという方は、『Pilates As Conditioning Academy』もご覧ください。
https://pilates-as-conditioning.com/

※参考文献
片寄正樹:足部・足関節理学療法マネジメント.メジカルビュー社.2018.
足関節・足部疾患の機能解剖学的病態把握と理学療法.理学療法31(2).2014.
林典雄:運動器超音波機能解剖.文光堂.2015.