機能解剖学&運動生理学

骨格筋肥大のメカニズム

こんにちは。
理学療法士の中北です。

本日は、分かっているようで意外と曖昧だったりする「骨格筋肥大のメカニズム」についてのお話を。

筋タンパク質合成の亢進

骨格筋組織の構造を例えるなら、筋線維が束上になって袋の中に詰め込まれ、両端の腱によって骨につながれている状態です。

そのため、骨格筋を肥大させるということは、袋の中に入っている一本一本の筋線維を大きくするか、筋線維自体の数を増やすかのどちらかに集約されます。

筋線維の解剖イラストトートラ人体解剖生理学から引用

実際に、肥大した骨格筋を顕微鏡で観察すると、一本一本の筋線維が肥大していることからも、筋肥大のためには筋線維を太くすることが大切であることが分かりますね。

筋線維を構成する主成分は、水分を除くとタンパク質ですので、筋線維内におけるタンパク質の合成と分解のバランスが、合成側に傾くことで筋タンパク質量は増加し、筋線維は肥大することになります。

つまり、筋タンパク質合成を促す刺激を増やし、筋タンパク質を分解させる刺激を減らせば、自ずと筋肥大は生じるということです。

それでは、筋タンパク質の合成を促す刺激とはどのようなものがあるのでしょうか。

代表的なものが、筋線維に対する機械的刺激である筋力トレーニングですね。

筋力トレーニングを行うことで筋タンパク質分解も亢進しますが、それ以上に合成が促されます。筋力トレーニング直後から筋タンパク質合成は亢進し、約6時間でピークを迎え、その後は緩やかに減少するものの、48時間程度は合成が亢進した状態が続くという報告も。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9252485/

筋タンパク質合成には、インスリン様成長因子(IGF-1)が関与するシグナル伝達系が主要な役割を果たしていると考えられており、IGF-1は筋線維に対する機械的刺激で分泌されますが、このIGF-1の受容体系の中には、筋タンパク質の分解を抑制するように働くものも存在します。

その他にも、ストレッチ刺激や温熱刺激なども、筋肥大に関与する細胞内シグナル伝達系に関与しているといわれており、下図のとおり様々な分子が筋タンパク質合成に関わっています。

筋肥大に関わる分子CLINICAL RRHABIRITATION.Vol.29 No.2 2020から引用

筋核数の増加

筋線維が肥大するメカニズムとしては、前述のように筋タンパク質合成が亢進することに加え、筋核数の増加も生じます。

この筋核数の増加に関わるのが、筋線維を取り巻く筋衛星細胞。

筋力トレーニングによる筋肥大刺激により筋衛星細胞は活性化し、増殖して既存の筋線維に融合、あるいは新たに筋線維を形成します。

筋衛星細胞を欠損したマウスによる実験では、筋肥大が生じても筋核数の増加は伴わなかったとの報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21828094/

つまり、筋線維の肥大に伴って増加した筋核は、筋衛星細胞由来であるということが分かりますね。

ちなみに、加齢に伴い筋線維が萎縮することは周知のとおりですが、これは筋核数の減少が関わっていますが、筋核数が減少すると筋タンパク質の合成も低下するため、分解量が合成量を上回り、徐々に筋萎縮していってしまいます。

筋肥大に効果的な1セットの回数

それでは最後に、どのように筋力トレーニングを実施したら筋肥大に有効なのかを確認していきましょう。

一般的に筋肥大に有効な1セットの回数は8回~12回とされていますが、実際はどうなのでしょうか。

1回挙上重量(1RM)の何%の運動強度が、筋タンパク質合成に効果的なのかを検討したリサーチによると、20代を中心とした若年者群では、1RMの75%において最も筋タンパク質合成のピークとした山なりの曲線を描くとされ、70歳前後の高齢者群では、60%以上であれば75%でも90%でも同様に筋タンパク質合成が高まると報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2670034/

若年者と高齢者の効果的なトレーニング強度のグラフJ Physiol. 2009 Jan 1; 587(Pt 1): 211–217.Published online 2008 Nov 10から引用

つまり、若年者であれば10回ギリギリ挙上できる程度の重量で、高齢者であれば4~20回ギリギリ挙上できる程度の重量設定で、筋力トレーニングを行うことが筋肥大には効果的だということですね。
※高齢者の場合は、ギリギリできる重量設定だと循環器系へのリスクが高まりますので、ご配慮ください。

 

本日は、骨格筋肥大のメカニズムについてお話いたしました。

多くの人にとっては「つらい」と感じる筋力トレーニングかもしれませんが、せっかくならば、より効果的な方法で目的とする身体作りをしていきましょう!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

さらに身体に関する学びを深めたいという方は、『Pilates As Conditioning Academy』もご覧ください。
https://pilates-as-conditioning.com/

※参考書籍および文献
・CLINICAL RRHABIRITATION.Vol.29 No.2 2020
・CLINICAL NEUROSCIENCE Vol.38.No.6 2020
・Bone Joint Nerve Vol.3.No.1 2013
・Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107

・Development. 2011 Sep;138(17):3657-66
・J Physiol. 2009 Jan 1; 587(Pt 1): 211–217.Published online 2008 Nov
・トートラ人体解剖生理学