機能解剖学&運動生理学

股関節の機能解剖1|股関節の特徴と前捻角とは

こんにちは。
理学療法士の中北貴之です。

本日は股関節の特徴を機能解剖の観点からお話します。

股関節の構造について

股関節は大腿骨頭と寛骨臼より構成されており、かなり安定性の高い関節の構造をしています。

大腿骨頭の大部分は関節唇を含めた関節窩に密着していますし、関節包・靭帯・筋を全て取り除いてたとしても、骨頭を逸脱させるには22kgの牽引力が必要だといわれています。

膝関節の機能解剖でもご紹介しましたが、変形性股関節症の患者数は変形性膝関節症の約1/10以下であるとされています。

股関節は膝関節に比べて構造的に安定している為、変形も生じにくいと推察されます。

ちなみに、変形の原因も股関節の場合は二次性が多く、膝関節の場合は一次性がほとんどです。

変形性関節症の一次性と二次性の違い

一次性の変形性関節症とは、明確な原因がないということです。例えば、加齢変化や肥満、筋力低下などによって生じる変形を指します。

二次性の変形性関節症とは、明確な原因があるということです。例えば、股関節の場合は先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が日本では大半を占めます。

臼蓋形成不全(寛骨側の屋根が浅い状態)などによって関節の不安定性が生じていると変形が生じやすくなります。

臼蓋形成不全によって寛骨側の屋根のかぶりが浅いと関節が不安定なので、骨盤の前傾を強めることで屋根を深くし、安定性を高めようとします。

ちなみに、骨盤が過前傾することで腰椎も過伸展することになるため、腰痛の原因となっていることもあります。

股関節の前捻角とは

股関節の特徴の一つとして、覚えておきたいのが「前捻角(ぜんねんかく)」です。

前捻角とは、大腿骨体部と大腿骨頚部の捻じれのことです。

大腿骨を上方から見ると、正常では大腿骨体部に対して大腿骨頚部は10度~15度前方を向いています。

つまり前方に捻じれているような状態です。

そのため「前捻角」といいます。

この前捻角が大きいことを過度前捻、反対に前捻角が少ないことを後捻といいます。

過度前捻だと大腿骨頭の前方の露出が増加するため、代償的に股関節を内旋位にして安定性を高めようとし、反対に後捻だと代償的に股関節を外旋位にします。

実際の運動指導に置き換えて考えてみましょう。

仮に前捻角が少ない「後捻」の方が、何らかの下肢のエクササイズをする場合、股関節内外旋中間位というのは後捻がある方にとっては股関節内旋位となっているということです。

つまり、後捻がある方にとっての股関節内外旋中間位は、股関節軽度外旋位ということになります。

そのため、ゴルフのスタンスなども前捻角によって変えた方が良いことが推察されます。

股関節の前捻角と回旋動作との関係とは

ゴルフを例に具体的に考えてみると、「後捻股」の方の場合、両足を平行に構える。いわゆるパラレルスタンスをとっていると、股関節のポジションとしては、内旋位で立っているのと同様になります。

そこから回旋運動を行おうと思っても、既に股関節が内旋している状態から、更に内旋が求められる為、股関節での回旋運動が難しく、膝関節や腰椎部での代償動作が出やすいと考えられます。

その為、「後捻股」の方の場合は、足をパラレルスタンスで立つよりも、つま先を少し外側に向け、前捻角に合わせてやや外旋位で構えた方が回旋運動はスムーズになると考えられます。

筋力トレーニング時の注意点とは

スクワットなどの筋力トレーニングを行う際も、後捻の方であればつま先をやや外側に向けて行うなど、股関節の前捻角に合わせて立ち方を決定していくことが重要です。

ただし、ムーブメントトレーニングを行う場合は仮に股関節が「後捻股」だとしても、ダッシュからの切り返し動作の際につま先や膝が外を向いてしまうと、バイオメカニクスの観点から反対方向への切り替えしが困難になるため、つま先は正面を向けて行いましょう。

前捻角の考慮は必要ですが、クライアントの動因や身体の状態、目的とする動作、バイオメカニクス、他の関節への影響など、様々な観点から考えていくことが重要になります。

前捻角の評価法とは

「前捻角」の評価方法としては、X線検査となりますが、現場レベルでは実施が難しい為、「クレイグテスト」により「正常」、「過度前捻」、「後捻」と評価をした上で、筋肉や関節包など軟部組織による影響を排除する為、「股関節屈曲位での内外旋可動域(仰臥位)」と「股関節中間位での内外旋可動域(伏臥位)」などを評価することで予測していきます。

クレイグテスト

①被検者は腹臥位で股関節内外転中間位になります。

②膝関節を90°屈曲した状態で大転子に触れ、他動的に股関節の内外旋を行います。

③大転子が最も膨隆する角度を評価します

正常:内旋10°~15°で最も膨隆

後捻:内旋10°以下で最も膨隆

過度前捻:内旋15°以上で最も膨隆

大転子を触れる
外旋
内旋

 

※主観的な評価方法ですので、その他の評価と組み合わせて判断しましょう!

例えば、クレイグテストの結果、股関節0度で大転子が最も隆起を感じ(後捻股の所見)、股関節屈曲位でも、中間位においても、股関節の内旋可動域が低下をしている場合(股関節後捻の場合、元から内旋位にある為、内旋可動域が低下すると考えられる)、後捻股であると考えられます。

その他の股関節の評価法との関係

股関節の前捻角が正常の前捻ではなかった場合、他の評価をする際にも、その事を頭に入れた上で行う事が重要です。

例えば、「過度前捻」のクライアントの「立位前屈」や「立位回旋」を評価したとしても、股関節外旋位で前屈や回旋を評価しているのと同様になると考えられる為、前屈や回旋は制限されやすいと考えられます。

そうすると、評価法を通して、本来観たいと思っていたことがみれなくなってしまう訳ですね。

その為、「関節弛緩性」などと共に、最初に前捻角の評価を行うことをオススメいたします!

さらに身体に関する学びを深めたいという方は、『Pilates As Conditioning Academy』もご覧ください。
https://pilates-as-conditioning.com/

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※参考文献
福林徹:骨盤・股関節・鼠径部のスポーツ疾患治療の科学的基礎.ナップ.2013.
股関節および周辺疾患の機能解剖学的病態把握と理学療法.理学療法31(9).2014.
スポーツ股関節痛ー診断と治療ー.Monthly Book Orthopaedics31(6).2018.
山嵜勉:整形外科理学療法の理論と技術.メジカルビュー社.1997.
小関博久:外来整形外科のための退行性疾患の理学療法.医歯薬出版.2010.