こんにちは。
理学療法士の中北です。
今回のテーマは「肩の腱板断裂」について。
肩の腱板断裂は、整形外科系で働いている方はもちろん、運動指導者の方でも遭遇することの多い疾患の一つですね。
腱板の構造と病態
肩の腱板は、肩甲上腕関節の動的安定化機構の中心的役割を担う重要な組織で、「棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋」の4つの筋腱で構成されています。
「腱板」と命名されているように、腱板は一塊の板状になっているわけですが、その内部は5層構造になっています。
第1層と第4層は烏口上腕靱帯から連続する線維により構成され、第2層と第3層が腱板構成筋、第5層は関節包というように、ミルフィーユのような層構造になっているんですね。
拘縮肩においては、烏口上腕靱帯の滑走性が注目されますが、腱板構成筋を挟み込んでいるような走行をしていることからも、その重要性が分かります。
腱板断裂は「完全断裂」と「不全断裂」に大別され、肩関節腔と肩峰下滑液包が交通しているものが完全断裂、交通していないものが不全断裂です。
さらに不全断裂は、滑液包面が断裂する表層断裂と、関節包面が断裂する深層断裂に分類され、深層断裂の方が拘縮肩を引き起こす割合が高いという報告もあります。
なお、不全断裂に比べると完全断裂の場合は拘縮肩になりにくいと言われています。完全断裂の状態は小さな穴が空いている状態になり、関節の陰圧が保てなくなるためだと考えられています。
関節を安定させるために必要な陰圧が維持できないということは、拘縮肩にはなりにくいけれど、ルーズな肩になりやすいということですね。
無症候性の腱板断裂
腱板断裂を起こすと動的安定性が損なわれるため、痛みや脱力感などの何かしらの症状が生じるのかと思いきや、必ずしもそうとは限りません。
実際に、中島らによる腱板断裂症例の65.6%は肩痛などの症状が生じなかったという報告や、山本らによる無症候性断裂の割合は65.4%だったという報告が示すように、腱板が断裂しても約2/3は何の症状も無く生活できているようです。
それでは、何が症候性と無症候性を分けるのでしょうか。
現時点で明確な要因は特定されていませんが、棘下筋や小円筋の硬さが影響しているのではないかと考えられています。
これは、棘下筋が伸張位となる肩関節伸展位での内旋運動や、小円筋の硬さを最も反映する肩関節屈曲位での内旋運動において、症候性腱板断裂肩では上腕骨頭の求心位が保たれていないことが報告されているためです。
いわゆる筋の硬さによって関節包の緊張も高まり、”軸ズレ”が生じることが、痛みの原因という見解ですね。
断裂した腱板の経過
腱板部分は血液供給が乏しいため、断裂した腱板は治癒しません。
むしろ、断裂部位が拡大するケースも多いようです。
無症候性断裂であっても、もともとの断裂部位が大きいと、徐々に断裂サイズが拡大して痛みなどの症状が出る可能性が高いことも示唆されています。
では、手術をした方が良いのか?
というと必ずしもそうではなく、手術適応の明確な基準は示されていないのが現状ですので、一人一人の状態や症状にあった対応が必要です。
なお、注射療法や運動療法などによる保存療法においても、70%の方は症状が軽快すると言われていますので、まずは炎症を抑え、周囲の筋肉の状態を良くして”軸ズレ”が生じないようにすることが大切ですね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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※参考書籍および文献
・肩腱板損傷の理学療法.理学療法32(3).2015
・腱板断裂の診断と治療.関節外科34(10).2015
・肩関節インピンジメント症候群.臨床スポーツ医学30(5).2013
・信原克哉:肩診療マニュアル第3版.医歯薬出版.2004
・無症候性腱板断裂の疫学.肩関節32(2).2008
・坂井健雄監訳:グラント解剖学図譜第6版.医学書院.2011.