機能解剖学&運動生理学

骨盤帯の機能解剖4|腹腔内圧とは

こんにちは。
理学療法士の中北貴之です。

本日は腹腔内圧についてお話いたします。

腹腔内圧とは

腹腔内圧とは、腹腔を構成する筋群の共同的な収縮によって上昇する圧力のことです。

腹腔内圧は脊柱の安定性や排尿・排便において大切な役割を担いますので、身体にとっては不可欠な機能であると言えます。

一方で、腹腔内圧が上昇することで血圧が上昇したり、椎間板内圧も上昇したりしますので、血圧が高い方や椎間板由来の痛みがある時などは注意が必要です。

脊柱の安定化に重要な腹腔内圧ですが、腹腔内圧を高めるトレーニングが必要か否かで賛否が分かれるようです。

ちなみに私は中立派です。

個人的な見解として、腹腔内圧の上昇が必要な場面はケースバイケースであると考えています。

仮に腹腔内圧を数値化した時に、”100”必要な場面もあれば”10”だけ必要な場面もあります。

Harmanらの報告によると、4RM相当の強度のベンチプレスを行った際は約80mmHgの腹腔内圧上昇がみられ、同様にデッドリフトを行った際は約160mmHgの腹腔内圧上昇がみられたと報告しています。

試行課題と腹腔内圧の上昇量

・ベンチプレス  :80.3
・垂直跳び    :130.5
・ドロップジャンプ:153.8
・デッドリフト  :161.3
・レッグプレス  :161.3
・漕動作     :164.3
・バルサルバ操作 :200.0

※単位:mmHg

参考文献:Med Sci Sports Exerc. 1988;20:195-201

時速21kmでの走行動作時の腹腔内圧は”38mmHg”という報告もありますので、トレーニングや動作の種類によって求められる腹腔内圧の値は変わります。

なお、日常生活活動で考えると、安静立位や非努力性動作では1.5mmHg~7.0mmHg程度の腹腔内圧の上昇しか見られないと言われています。

これらを考えると、お客様や患者様の運動目的によって、どの程度の腹腔内圧が求められるのかは異なるということが推察されます。

よって私は中立派です!

例えば、スポーツ動作などではなくて日常生活動作を改善したいという方にとっては、腹腔内圧を高めた状態での動作学習をさせてしまうと、非効率的な動作を学習させてしまう可能性もありますね。

腹腔内圧を高めるトレーニングとは

ここまでお話してきたように、腹腔内圧が必要な場面もあります。

特に筋力トレーニングを行うにあたっては、腹腔内圧が適切に高められないと腰椎への負担が増加しますので、ウォーミングアップからしっかりと腹腔内圧を高めた状態を作っていく必要があります。

例えばデッドリフトを行う日であれば、しっかりと腹腔内圧を高めた状態で股関節の分離運動を行うような、レッグロワリングなどはおすすめのウォーミングアップです。

レッグロワリングのやり方

①仰向けになり、両膝を立てます。
②腹部の360度全体が膨らむようにし、息を吐く時も吸う時も腹部が膨らんだ状態を保ちます。
③両脚を挙上し、股関節を90度~100度屈曲位、膝関節軽度屈曲位にします。
④片脚だけ床の方へ下ろし、腰が反らない範囲で止めて戻します。
⑤片側10回行ったら、反対も同様に行ってください。

※この間、常に腹腔内圧を高めた状態を維持します。

本日は腹腔内圧についてお話しいたしました。

脊柱を安定させるために腹腔内圧は重要な役割を果たしますが、その程度は動作によって異なります。

お客様が何を求めていらっしゃるのかに合わせ、ご案内していきましょう!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※参考文献
齋藤昭彦:腰痛に対するモーターコントロールアプローチ.医学書院.2008.
福林徹:骨盤・股関節・鼠径部のスポーツ疾患治療の科学的知識.ナップ.2011.
E A Harman:Intra-abdominal and intra-thoracic pressures during lifting and jumpingMed Sci Sports Exerc. 1988;20