神経系と感覚器のしくみ

痛みの神経科学②~急性痛と慢性痛の違い~

こんにちは。
imok株式会社で活動している、理学療法士の中北貴之です。

今回は『急性痛と慢性痛の違い』についてのお話です。

痛みとは

急性痛と慢性痛の違いというテーマに入る前に、
そもそも痛みとは何ぞや?という部分を確認しておきましょう。

痛みとは、国際疼痛学会によると以下のように定義されています。

「組織損傷が実際に起こった時、あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」

つまり、実際の組織損傷だけではなく、痛みとなる刺激がなくても不快感や情動体験が引き出されることによって痛みは生じるということなので、「実際の組織損傷による痛み」と「実際の組織損傷が無くても、不快感や情動体験が生み出す痛み」に分けて考える必要があり、これらを分類したのが「急性痛」と「慢性痛」です。

急性痛と慢性痛は単なる痛みの持続期間の違いではなく、痛みが組織の損傷程度と釣り合っているものを”急性痛”、痛みが組織損傷の程度と釣り合っていないものを”慢性痛”といいます。

それでは、急性痛と慢性痛のそれぞれの特徴を確認していきましょう。

急性痛

急性痛は、生体内で生じた異常の警告サインであり、防御反応です。

組織が損傷されると、ブラジキニン、サブスタンスP、プロスタグランジン、ヒスタミン、カリウムイオン、水素イオン、ATPなどなど、様々な発痛物質や炎症メディエーターなどが損傷組織から放出され、侵害受容器の興奮性が高められます。

ブラジキニンやプロスタグランジンには血管透過性や血管拡張作用もあるため、血管内の血漿成分が血管外に漏出して腫脹が生じ、血管が拡張すると皮膚表面からは赤く見え(発赤)、熱の運搬が促進されるため熱をもち(発熱)、炎症の4徴候となる「発痛・腫脹・発赤・発熱」が生じます。

このような炎症徴候が見られるということは、ある程度の組織損傷が生じている結果ですので、組織損傷炎症徴候は急性痛の特徴の一つといえますね。

なお、炎症は急性炎症と慢性炎症に分類され、急性炎症は数日から2週間までを指し、慢性炎症は数週間、数ヵ月、数年、時限なく炎症が継続するものを指します。

急性痛の治療としては、侵害刺激への対応のために薬物療法や寒冷療法が行われます。他にも、痛みに伴う逃避反射や屈筋反射によって筋が持続的に収縮していると、局所的に循環が悪くなって痛みも持続しやすくなるので、そのような場合には温熱療法や運動療法も有効です。

慢性痛とは

慢性痛は、組織損傷が明らかに治癒しているにも関わらず残存する痛みや、損傷がない状況で、通常なら痛みとは感じない程度の刺激でも痛みとして感じる状態のことを指します。

慢性痛は、末梢ならびに中枢神経系の感作や可塑的変化によって引き起こされます。

感作とは刺激閾値の低下や、感受性増大に伴う過敏状態のことで、末梢性と中枢性に分かれます。

末梢性感作とは、末梢受容器に侵害刺激が繰り返されることで、閾値が低下して痛みを感じやすくなることで、中枢性感作とは、脊髄後角にある広作動域ニューロンに刺激が反復されることにより、閾値低下や痛覚刺激以外でも痛みを感じるようになることです。

このような神経の感受性増大や感作に加え、神経の再構築も慢性痛には関わります。

本来、侵害刺激を伝えるニューロンはAδ線維とC線維がありますが、これらが非侵害性体性感覚ニューロンであるAβ線維や交感神経と、新たな回路を構築することが考えられています。

要するに、本来は痛み刺激を伝達しない神経回路まで、痛み刺激を伝えるようになってしまうということですね。

他にも、脳の可塑的変化も慢性痛に関与しています。
通常では痛みとして認識されない刺激においても、慢性痛患者においては、感覚野や前頭前野、帯状回などに異常な活動がみられるようになることが報告されています。

このように、慢性痛の原因は単に末梢組織だけの問題ではないため、治療としても痛みを訴えている末梢組織への介入や薬物療法だけではなく、認知行動療法や全身運動を取り入れることで不活動を避け、身体的・心理的な改善を促すことが有効です。

 

本日は急性痛と慢性痛の違いについてお話いたしました。
それぞれの特徴に合わせた介入が大切ですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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