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外側運動制御系と内側運動制御系

こんにちは。
理学療法士の中北です。

今回のテーマは『外側運動制御系と内側運動制御系』について。

外側運動制御系と内側運動制御系との違い

コップを持って水を飲んだり、何か考え事をしながら歩いたりなど、私達が普段何気なく行っている動作は、視覚や前庭覚、体性感覚情報を基に中枢神経系が統合し、筋に指令が届くことで実行されています。

上記のような、「コップを持って水を飲むような、四肢の遠位筋(手指や足部)を用いた精緻動作」と、「何か考え事をしながら歩くような、体幹や四肢の近位筋による姿勢や歩行の制御」では、異なる神経機構が関与しています。

前者は脊髄の背側索(外側)を下行するため外側運動制御系と、後者は脊髄の前索と前側索(内側)を下行するため内側運動制御系と呼ばれています。

ちなみにこの概念は、1980年代にKuypers氏が提唱したようですが、脊髄下行路を整理して理解するために、とても分かりやすいですね。

外側運動制御系と内側運動制御系のイラスト高草木薫 臨床神経 2009より引用

それぞれの役割を大まかにいうと、対側の随意運動を制御するのが外側運動制御系、同側の不随意運動の制御を担うのが内側運動制御系。

例えば、立位で右下肢を上げて片脚立ちになるとしましょう。
このとき、左側の大脳皮質から起始する外側運動制御系が右下肢をコントロールしますが、先行して左側の大脳皮質に起始する内側運動制御系が左下肢でバランスをとるように指令を出しています。

「右下肢を上げよう」というのは随意的ですが、「左下肢でバランスをとって」という指令は、通常であれば不随意ですよね。

このように、外側運動制御系と内側運動制御系は経路や役割が異なります。

外側運動制御系

外側運動制御系のイラスト高草木薫 臨床神経 2009より引用

外側運動制御系の主力となる経路が外側皮質脊髄路。

4野(一次運動野)と6野(補足運動野・運動前野)から起始する皮質脊髄路の90~95%は、延髄の錐体交叉を通過して対側脊髄の背側索を下行しますが、この神経経路が外側皮質脊髄路です。

外側皮質脊髄路は、体部位局在に対応した対側の体幹や四肢の運動に関与し、特に四肢の遠位筋の運動制御に関わります。

また、外側皮質脊髄路は一次体性感覚野からも起始しており、対側の後側索(触覚や固有感覚の中継核)や脊髄後角(温痛覚)に作用して、運動時の運動感覚の取捨選択にも関与。

一次体性感覚野は、6野(補足運動野・運動前野)から運動計画を受け取るとともに、常に感覚情報を6野と4野(一次運動野)に提供して、運動計画の作成や運動指令の発動にも関与しているので、一次体性感覚野の運動制御への関りはとても重要だと考えられます。

外側皮質脊髄路の一部は、中脳の赤核に投射して赤核脊髄路を駆動しており、対側の上肢屈筋群を促通します。

ただし、ネコやサルでは赤核脊髄路は発達していますが、チンパンジーやヒトでは発達していないといわれていますので、この経路はそこまで気にしなくてもよいかもしれませんね。

内側運動制御系

内側運動制御系高草木薫 臨床神経 2009より引用

 

内側運動制御系は、「網様体脊髄路・前庭脊髄路・視蓋脊髄路」といった脳幹から起始する下行路と、「前皮質脊髄路・皮質延髄路」のように皮質から起始する経路によって構成されており、体幹や四肢近位筋による姿勢や歩行の制御を担います。

複数ある内側運動制御系のなかでも、主力といわれるのが網様体脊髄路

網様体脊髄路は”橋網様体脊髄路”と”延髄網様体脊髄路”に分かれます。

橋網様体脊髄路は、橋から起始して体幹や四肢近位筋の伸筋群を促通し、屈筋群を抑制しています。

一方の延髄網様体脊髄路は、延髄から起始して体幹や四肢の伸筋群を抑制し、屈筋群を促通しています。

どちらも、同側の大脳皮質(特に6野:補足運動野と運動前野)からの抑制下にあり、橋の伸筋刺激領域は抑制性に制御され、延髄の伸筋抑制領域は興奮性の制御を受けています。

つまり、大脳皮質がちゃんと機能している状態では、伸筋が過剰に促通されないように上位中枢から抑制されているということですね。

また、前庭脊髄路も姿勢や歩行の制御には大きく寄与しています。

前庭脊髄路は外側前庭脊髄路と内側前庭脊髄路から構成されており、多少役割が異なります。

外側前庭脊髄路は、耳石や脊髄小脳からの入力を受け、前庭神経核の外側核から起始して同側の頚髄から仙髄までを走行し、同側四肢の伸筋群を強力に促通するほか、姿勢と空間定位に関わります。

一方の内側前庭脊髄路は、半規管や前庭小脳からの入力を受け、前庭神経核の内側核と下核から起始し、大部分が両側の上位頚髄レベルまで走行します。そのため、関与する範囲は両側の頭部や頚部、四肢の近位筋までで、主に定位に関与します。

その他の内側運動制御系である、視蓋脊髄路は眼球運動と頭部や頚部の協調運動に、皮質延髄路は咀嚼・嚥下・発声・唇の動きなどに、前皮質脊髄路は対側の精細な随意運動を制御しています。

 

今回は、外側運動制御系と内側運動制御系についてお話しました。
普段の何気ない動作も、さまざまな神経機構によって制御されていることを考えると、ヒトの身体ってよくできていて面白いですね!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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