こんにちは。
理学療法士の中北貴之です。
ヒトは食べなくても2~3週間は生きられ、水を飲まなくても4~5日は生きられますが、呼吸をしないと5~6分しか生きられないと言われています。
そしてヒトは一日に約22,000回も呼吸しています。
それほどヒトにとって必要不可欠な呼吸において、安静呼吸時の70~80%を担う組織が横隔膜です。
今回は横隔膜の機能解剖についてご紹介していきます。
横隔膜の解剖
まずは横隔膜の解剖について確認しましょう。
起始部
・肋部:第7~12肋軟骨内面
・胸骨部:剣状突起後面
・脚部:右脚(L3)と左脚(L2)の腱性付着部を介してL1~L3椎体
停止部
・腱中心
上記のように、脚部においては右側の方が左側よりも遠位に付着しています。
また、横隔膜の頭側のドームも右側の方が高くなっているため、横隔膜の特徴の一つが左右の非対称性です。
これは、横隔膜の直下にある肝臓が右側にしかない、横隔膜の直上にある心臓が左寄りにあるなど、そもそもの臓器の配置が影響しています。
横隔膜と呼吸
冒頭で述べたように、横隔膜は安静呼吸の70~80%に関与しますので、ちゃんと働いてくれないと大変そうですね。
実際に横隔膜の機能低下が、肩こりや首こりの一因になったりします。
呼吸をするためには、肺が拡張して空気を取り込む必要がありますが、肺は自分自身では拡張することができません。
肺を収納している胸腔が拡張することで肺も拡張され、空気を取り込むことができます。
そして、胸腔の底の部分が横隔膜です。
家で例えると、肺がリビング、横隔膜が床、胸部周囲筋群が壁、頚部筋群が天井です。本来であれば床が大きく下がってリビングの空間が広がることで、空気がたくさん入ってきます。
ところが、床があまり下がらなくなると空気が入る量が少なくなります。それでは困るので壁や天井がたくさん動くことでリビングの空間を広げようとします。
つまり、横隔膜(床)の機能が低下することで、胸部周囲筋群(壁)や頚部筋群(天井)を過剰に使用することになり、肩こりや首こりの一因にもなります。
Zone of Appositionとは
横隔膜の機能として重要なのがZOAで、Zone of Appositionの略です。
ZOAとは、息を吐いたときの横隔膜のアーチの頂上から、息を吸って平らな形になるところまでの動く範囲のことです。(※横隔膜は息を吸うときに下がります)
ZOAが小さいということは横隔膜の動きが少ないということです。
そのため、ZOAをしっかりと確保することが呼吸を適切に行うためには重要だということですね。
ZOAは肋骨の形状によって変化しますので、合わせて肋骨の機能解剖についても確認していきましょう。
肋骨の機能解剖
肋骨の分類は以下の通りです。
【真肋】
第1~7肋骨。胸軟骨や肋軟骨を介して胸骨に付着。
【仮肋】
第8~10肋骨。直上の肋軟骨に付着。
【浮肋】
第11、12肋骨。腹側はどこにも付着しない。
なお、背側は第1~12肋骨の全てが胸椎と関節を構成。
よく矢状面における姿勢の指標として「ASISの直上をたどり、最初に当たる骨が第10肋骨」と表現しますが、第11・12肋骨は腹側まで来ていないため、第10肋骨が最初にあたるということですね。
VISIBLE BODYで作図続いては、肋骨が関与する関節についてです。
上図の通り肋骨は胸椎と胸骨に接触していますので、前面では肋骨と胸骨によって成る「胸肋関節」を、背面では肋骨頭と胸椎の椎体から成る肋骨頭関節と、肋骨結節と胸椎横突起が接する肋横突関節を合わせた「肋椎関節」を構成しています。
特に肋椎関節は、胸椎の動きの制限因子にもなりやすい関節ですので、もう少し詳しくみていきましょう。
全ての関節には「緩みの位置」と「締まりの位置」がありますが、肋椎関節においては下記の通りです。
・肋骨外旋位=締まりの位置
・肋骨内旋位=緩みの位置
肋骨外旋位とは肋骨が後方回旋して前側が開いている状態で、肋骨内旋位とは肋骨が前方回旋して前側が閉じている状態です。
締まりの位置では、関節の適合性が高くて安定していますが可動性は低下します。
肋椎関節が締まりの位置になるということは、胸椎の可動性が低下するので脊柱の分節性も低下するということです。
ゴルフや野球、テニスなどのような回旋系の動作においては、胸椎の可動性は非常に重要ですので、ウォーミングアップなどで肋椎関節を締まりの位置から解放するようなエクササイズを入れていくと良いですね。
↓↓のエクササイズなどがオススメです。
肋骨の内外旋とZOA
最後に、肋骨とZOAの関係についても確認していきましょう。
結論からいうと、肋骨が外旋位になるとZOAは小さくなります。
なぜなら、肋骨が外旋しているということは、肋骨が開いているので横隔膜も外側に引っ張られた状態になります。
反対に肋骨が内旋していると肋骨は閉じるので、横隔膜は中心に近づきます。
どちらが横隔膜のドームが低くなるかといえば、当然ながら肋骨が外旋して横隔膜が外側に引っ張られている状態のときです。
例えば、両手で紐を持っているとして、両手間を横に遠ざけた時と近づけた時であれば、遠ざけた時の方が紐が引っ張られて平坦になりますよね。
肋骨外旋位では横隔膜のドームが通常よりも平坦な状態になるため、ZOAも小さくなります。
ZOAが小さいということは、呼吸における横隔膜の関与が減るということですので、頚部や胸部の筋肉が過剰に使われるようになり、肩こりや首こりの一因となります。
本日は、横隔膜と肋骨の関係についてお話いたしました。
横隔膜は呼吸筋としてだけではなく、体幹部の安定化筋や食道括約筋としての役割もありますので、肋骨のアライメントを整えて横隔膜を適切に機能させることは大切ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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※参考文献および書籍
・坂井健雄監訳:グラント解剖学図譜第6版.医学書院.2011.
・柿崎藤泰:胸郭システムの再建法第2版.ヒューマンプレス.2017.