こんにちは。
理学療法士の中北です。
今回は、変形性膝関節症の病態についてお話いたします。
変形性膝関節症は高齢者において頻度の高い運動器疾患で、2007年の厚生労働省の報告では、自覚症状を有する膝OA患者は約1,000万人、潜在的な患者数までを含めると約3,000万人もいると推定されており、治療や運動指導の現場でも多く遭遇する疾患の一つですね。
変形性膝関節症の病態
変形性膝関節症は、関節軟骨の摩耗や変性をはじめ、筋や靱帯、滑膜や関節包など膝関節周囲の組織全体に退行性変性が生じていきます。
関節は「関節軟骨・滑膜・関節腔」によって構成されており、膝関節の場合は大腿骨と脛骨の関節軟骨間のクッション作用を果たす半月板や、関節の安定性を高める前十字靱帯と後十字靭帯が関節内に存在することが、その他の関節と異なる特徴の一つです。
関節軟骨は液状の細胞外基質(細胞外マトリックス:ECMとも呼ばれる)と、それを産生する軟骨細胞によって構成されており、細胞外基質は60~85%が水分、15~20%がⅡ型コラーゲン、3~5%がアグリカンという糖タンパク質によって組成されています。
加齢や肥満、生活習慣などによって関節軟骨へのメカニカルストレスが増加して関節軟骨が摩耗すると、摩耗粉が誘因となる関節炎が生じて痛みを感じます。なお、関節軟骨自体には痛覚神経は存在しないので、軟骨同士がぶつかって痛いのではなく、軟骨の摩耗粉による炎症が痛みを感じる原因です。
さて、関節炎が生じると、炎症促進性サイトカインであるインターロイキン-1βやTNF-αに刺激されて、軟骨基質を分解する酵素であるmatrix metalloproteins(MMP)やA disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs(ADAMTS)が軟骨細胞や滑膜細胞から産生され、細胞外基質の分解を亢進させて軟骨の破壊が進行します。
そして、軟骨が破壊されるとまた炎症性サイトカインが分泌され・・・という悪循環に陥ることで関節の変形が進んでしまうんですね。
そのため、変形性膝関節症を進行させないためにも、炎症期ではまず炎症を終息させることが最優先ですので、痛みがあるのに無理に荷重をかけるような運動は避けるようにしましょう。
変形性膝関節症の評価
変形性膝関節症の評価は単純X線撮影が用いられることが多く、1957年にKellgrenとLawrenceによって提唱された「Kellgren-Lawrence分類(KL分類)」が、世界共通の評価として一般的です。
関節裂隙が50%以上保たれているKL分類のGrade1,2では正常膝と比べて側方動揺性に差はなく、50%以下に狭小化したGrade3,4になると側方動揺性が増大し、前後の動揺性はGrade1,2でも大きくなることが報告されています。
なお、骨棘形成や関節裂隙の狭小化と疼痛の程度は比例しておらず、変形が軽度でも膝関節の伸展制限、外側スラスト、回旋不安定性などの膝関節の不安定性があると、関節へのメカニカルストレスや筋の過剰収縮を招くため、疼痛が生じやすくなります。
痛みの好発部位
膝痛の疼痛刺激が生じやすい部位というのは、筋腱移行部や腱骨付着部などのように、物性の移り変わる力学的負荷のかかりやすい部分です。
膝痛 | 発生源 | 痛覚神経の存在部位 |
①関節内 | 関節炎 | 滑膜関節包 |
②関節周囲 | 関節包 | 線維性関節包 |
③関節支持軟部組織 | 筋、腱 | 筋膜、腱 |
④骨膜、関節支持骨組織 | 骨膜、骨実質 | 骨膜、骨 |
※宗田大:膝痛知る診る治す.メジカルビュー社を参考に作図
このように、膝痛の発生源となる組織は多く存在しています。一方で、関節軟骨、半月板の辺縁以外の部分、十字靱帯自体は痛覚神経が無いため、痛みの発生源にはなりません。
本日は、変形性膝関節症の病態についてお話いたしました。
治療や運動指導の現場でも多く遭遇する疾患ですので、なぜ痛いのかということを理解しておくと対応もしやすくなりますね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。